ビットコインと聞くと暗号資産(仮想通貨)を連想することはあっても、ブロックチェーンと言われるとあまりピンとこない人も多いのではないだろうか。暗号資産の基幹技術として使われているブロックチェーンは今や暗号資産の分野だけでなく、金融、物流、医療、行政など様々な分野での活用が期待されている。特にブロックチェーン技術はフィンテック分野に大きな革命をもたらすと言われており、さらに人工知能(AI)の導入によって金融サービスは今後大きく発展するだろうと予想されている。そこでこのコンテンツでは、ブロックチェーンとAIがもたらすであろう影響について詳しく解説する。

台帳情報の共有化を実現させた分散型台帳技術(DLT)

ブロックチェーン技術はビットコインのような暗号資産に使われている技術で、その特徴として中央管理者が存在しない「分散型台帳技術」を可能としたことで、世界中の企業から、ブロックチェーン技術がもたらすビジネスインパクトに注目が集まった。

分散台帳技術はそれぞれ独立した不特定多数のノード(ネットワーク参加者)が取引を承認する。ネットワーク上のノードは台帳を共有しており、もし一部のノードのパソコンがハッキングされたり、停止することになっても、チェーン全体に影響はなく、セキュリティ性能が高いと言われている。高い信頼性が求められる金融取引の重要データの管理において、分散型台帳技術は既に日本の金融界でも実証実験や導入が進められている。

また分散型台帳技術を例えば食品流通に導入した場合、従来は生産者や加工業者、配送業者など食品流通に関わる企業は自社システムで台帳情報を管理をしている。どの農産物がどこの業者に行き、どこが配送しているのかなど、いざデータを同期しようとしても、データ形式や管理方法が異なり課題が生じる。

そこで食品流通に関する台帳情報をブロックチェーン上で管理することで、データの共有化が容易になり、関わっている業者ならいつでも食品の所在や情報を確認することが可能となる。データの正当性はネットワークの参加者によって承認されるので、高い透明性と信頼性は確保される。

日本の証券業界に導入されつつあるブロックチェーン技術

2018年1月、SBIホールディングスは証券会社を中心とする18社が加入する「証券コンソーシアム」を設立した。この証券コンソーシアムは、証券業界の横断的な基礎技術の研究と共通基盤の構築を推進し、分散台帳技術や生体認証、AI等の最先端技術を活用した新たな金融インフラの検討を行うとしている。発足メンバーである18社は、楽天証券や野村證券など大手証券会社の名が連なっている。

もともとSBIホールディングスはRipple社と共同で、金融コンソーシアムに特化した子会社「SBI Ripple Asia株式会社」を設立している。今回そのSBI Ripple Asiaが事務局として、利用者の利便性向上、業務効率化を図ろうとしている。既にブロックチェーンを活用した本人確認やマネーロンダリング対策などの実証実験が行われており、国内の大手金融系企業がブロックチェーンの導入に積極的な姿勢を見せている。

社会に着実に浸透しつつある人工知能(AI)とは

上記はブロックチェーンのことを挙げてきたが、ここではAIについて改めて考えてみる。簡単に言うと、AIは人間ではとても記憶・処理できない膨大なデータを分析し、どの要素が重要な決定因子であるかを学習する、いわゆる「深層学習(ディープラーニング)」を得意とする。

例えば人間が「子供が増える未来にするにはどうすれば良いか」をAIを使って重要となる因子を見つけることが可能というわけである。その過程が、人間にはとても理解できないアルゴリズムが組まれており、AIが導き出した結果は実に正確とされている。医療における診断にも利用された経緯がある。

驚異的な分析能力に長けているAIと、人間による中央管理機関が存在しなくとも単独で機能し続けるブロックチェーン技術を組み合わせることで、より革新的なビジネスインパクトが生まれると、世界中の企業が既に注目している。

ブロックチェーン技術と人工知能(AI)を活用したプロジェクト

ブロックチェーン技術は今後、さらに広い分野での導入が進み、AIにおいても今後はより高度に、より重要な分野にまで応用されるであろうと言われている。既に、ブロックチェーン技術とAIを活用した様々なプロジェクトが世界各地で進められている。どういったプロジェクトがあるのか、いくつか以下に紹介する。

医療情報をAIやブロックチェーンで管理する「Doc.ai」

患者の治療データなどは各医療機関で管理され、医療機関のコミュニティの中ではその情報は共有されておらず、転院する際は患者が次の病院で症状や治療した内容を説明しなくてはならない、といった事実が海外ではよくある。

医療機関内で共有化が進まないといった問題を解決するために、イギリスにある人工知能を開発する企業「DeepMind」は、患者の個人情報をブロックチェーン技術を活用し、患者の情報を追跡できるシステムを開発した。

また大量の医療データに対してAIを使い解析し、医師を支援するための情報を提供するサービスを可能にした。医師はその患者の情報をスムーズに確認することができ、またAIによって導き出された治療案を医療方針に活用することができるようになる。

Microsoftが開発向けの新サービスにAIやブロックチェーン技術を提供

Microsoftが2019年5月7日、クラウドコンピューティングプラットフォーム「Azure」の新サービスを発表した。新サービスには、AI、MR(複合現実)、IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーンなど最先端技術が使われており、それぞれにサービスが提供される事になる。

AI技術が使われている「Azure Cognitive Services」では、アプリケーション自体が「見る」「聞く」「反応する」といった行動をとり、翻訳や推論が実行できるようにする機能が搭載れている。ブロックチェーン技術が使われている「Azure Blockchain Service」では、コンソーシアムブロックチェーンネットワークの形成や管理などを簡素化し、ユーザー設定やユーザーアプリケーションの認証といった管理作業の効率化を図る。

ブロックチェーン技術とAIを組み合わせたアクセラレータ

中国EC(インターネットを使った通信販売)第2位の「JD.com」は2018年3月、ブロックチェーンとAIを組み合わせたアクセラレータプログラムを発表した。同プログラムは、AIとブロックチェーン技術の関連スタートアップ企業を支援する目的がある。またこの新アクセラレータ「AIカタパルト」は、スタートアップ企業が開発した技術が現実社会で適用するかを検証していく。

人手不足の飲食業界にAIを搭載したバーテンダーロボット

海外でも飲食店の人手不足に悩まされている。そこでAI機能を搭載したバーテンダーロボットYanu(ヤヌ)が開発された。Yanuを開発したのはRobolab社で、飲食産業にサービスロボティックスの導入を推進している企業である。Yanuにドリンクの注文が入ると、Yanuによってドリンクが提供され、決済まで行われる。この一連の「契約内容」がスマートコントラクトに書き込まれており、人が介在しなくてもブロックチェーンとAIだけで完結させる。

まとめ

ブロックチェーン技術とAIは今後さまざまな分野での活躍が期待されてきたが、これまでは別々の用途で使われることを目的に開発されてきた。それがここ最近、この2つの最先端技術を組み合わせたサービスやプロジェクトが世界各地で進められつつある。日本国内でもそういった動きがあるので、今後、誕生するであろう新技術やサービスの登場に注目していきたい。